名古屋大学医学部附属病院メディカルITセンターは、複数施設にまたがる専門医間での画像共有システムとしてLOOKRECを利用しています。間質性肺炎のMDD(multidisciplinary discussion)診断の有効性を検証するPROMISE試験(ニュースリリースはこちら)において、オンライン上での合議が可能になりました。LOOKRECを選んでいただいた過程や現在の使い方について、呼吸器内科(医療情報)の古川大記先生、社会医学系専門医(医療情報)の大山慎太郎先生にお話を伺いました。
間質性肺炎は各専門医が合議することで診断率が上がる
呼吸器疾患である間質性肺炎、中でもIPFは平均的に3年くらいしか生きられません。死亡率で言うと肺がんと同じくらいの深刻な疾患です。間質性肺炎の診断は難しくて、呼吸器内科医だけでは診断率があまりよくありません。呼吸器科医の中でも間質性肺炎の専門家、CTやレントゲンを読影する放射線科医、それと、生検をして組織を見るので病理医で診断することが望ましく、この三者が集まってする診断をMDD診断と呼んでいます。
日本や欧米の呼吸器学会や国際的なガイドラインでも、診断率向上のためにMDDをすべしという話になっています。ただ、実現が難しい。呼吸器内科医、放射線科医、病理医、しかもそれぞれ間質性肺炎の専門の先生が揃って同じ病院に所属していることはかなり稀で、日本だとおそらく数施設しかありません。
ヨーロッパだと年間の死亡率の1%が間質性肺炎と言われるほど患者数の多い疾患ですが、その数に間に合いません。現実的に難しいので、これまでやられてこなかったという現状があります。日本では呼吸器学会が認定した呼吸器の専門医を育てる施設が約270くらいあります。その中でもMDDを常にやっている施設は約1割、たまにやる施設が3割、やったことがないというところが6割強います。オンラインならどうかと聞くと、呼吸器の認定施設の96%がオンラインMDD診断をぜひやりたいと言っています。
医学会ではCOVID-19で急速にオンライン会議が進んだ
診療科で言うと、外科ではコロナ以前から手術のオンライン配信がありました。一方で研究会のオンライン化はコロナがあって急速に進みました。別の部屋や自宅から同時に画像を見られるということは、やってみると非常に便利でニーズが高まっています。
研究で使う場合は、PROMISE試験もそうですがオンラインに情報をアップすることについて患者同意を取っています。これを診療の現場に持っていくためには個人情報、診療情報が漏洩しない仕組みとどこまでの共有を可とするのか、共有ツールを含めガイドラインをはっきりさせる必要がありますが、全部決めることは難しいと思います。
医師も患者もクラウドにアップロードすることに納得している
PROMISE試験はもともとクラウドに上げることを前提としてプロトコルを通しているので、参加施設の関係者も患者も、みんなクラウドに上がっていることを理解しています。患者さんにとっては、この試験への参加すなわち自分の情報がクラウドに上がるのですが、正確性の高い診断が得られるというメリットがあるので、拒否される率は低いと思います。目の前の医者だけではなくて、いわゆる超エキスパートの人たちにも見てもらった上で自分が診断と治療をしてもらっていると言うのは納得感があり喜ばれていると聞いています。
タスク管理のしやすさ、レスポンス、セキュリティ面が決め手
今もアクティブにLOOKRECは使っていて、評判もいいです。 集めるデータはDICOM画像とメタデータという年齢や背景情報などのデータです。全部集まったかどうか事務局が確認して、13の診断チームに対して適切に割り当ててタスク管理をしないといけません。そのタスク管理をうまくできるシステムを探しました。最初に入れたシステムはAPI連携していてその他のサービス、インターフェイスからなどの連携がやりやすいことと、ストレージの移動で権限管理もやりやすいことと、バージョン管理ができる点でよかった。しかし、表示されるまでに何度も止まったり、時間がかかるのが難点でした。
LOOKRECを選んだ決め手は、最初のシステムに比べて早いということとセキュリティ面で納得できたことです。他に検討したクラウドシステムの中にはセキュリティがかなり甘いものもありました。レスポンスや表示の早さについては、特に診断する側には大事です。診療するときに1分1秒で大きく変わってくると思うので、現状LOOKRECは非常に速くてありがたいです。
今後はMDD診断の保険収載と広く使われていくことを目指す
この研究はMDD診断の保険収載を目指しています。呼吸器学会の直下に委員会を立ち上げて、呼吸器学会、病理学会、放射線科学会合わせてやっています。点数を取れるようになるには数年かかりますが、ちょうど試験が終わる頃を見込んでいます。日本国内でするのか、国際的な枠にするのかはまた相談ですね。その先はサービスインさせて途上国や国内の開業医のみなさんなどにも広く使えるようにしていきたいです。その時はMDD診断にAIの診断補助をつけることも考えています。
LOOKRECがどの施設でも導入できるように
先ほど表示が早くてありがたいという話をしました。私たちのITセンターは100Mbpsくらいなのですが、一般的な病院やクリニックでは5Mbpsくらいのところもあります。表示の速さは回線速度に依存するので、施設側の環境を整えてもらわないと難しいのもわかります。私たちの期待としては、そういった低速回線の環境でも速く表示できるようになることです。例えば画質の圧縮や枚数を間引くのを選択できるといいかもしれません。あとは差分をうまく使うとかトリミングするとかで解決できるといいですね。そうすれば、試験の参加施設の幅を増やすこともできます。ブラウザもいろいろできますが、よく使う人のために専用のアプリケーションで圧縮転送できるようにするなど、より一層の高速化を実現できると喜ばれるのではないかと思います。
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名古屋大学医学部附属病院メディカルITセンター様
PROMISE試験事務局
https://portal.mdd.systems/